代替タンパク質への取組み 1 – The Netherland Food Style

The Eating Style
The Netherlands Food Style

代替タンパク質への取組み 1
Future Protein NL 1

ご挨拶

このFuture Protein NLでは、代替タンパク質分野におけるオランダの取り組みについてご紹介します。本誌をお読みになる皆様にも、今やグローバルな課題であるタンパク質の確保という取り組みにぜひご参加いただきたいと思います。私たちの環境と社会のニーズを満たしていくには、動物性の肉、乳製品、魚介類、卵と並んで代替タンパク質の開発が必須です。

オランダは、代替タンパク質分野において世界でも最先端の国として、アグリフード(農業食品)、サステナビリティ、知識共有の分野において豊富な知識と経験を誇っています。特にタンパク質の生産、加工、イノベーション、物流には多くの実績があり、動物性タンパク質と代替タンパク質のバランスを取りながら社会のあり方を転換できるよう努力しています。

本誌でご紹介していきますが、オランダのエコシステムは主に「連携」「イノベーション」「堅固な国際企業基盤」「ブランディング」「転換」という5つの要素で構成されています。そして、このシステムを支えるのが、安定した教育とハイスキルな人材です。
私たちの仲間になりませんか?

はじめに

Guido Landheer氏
農務省 欧州・国際・農業 経済政策担当部長 より

オランダは小さな国ですが世界最大級を誇る代替タンパク質の中心地です。オランダのエコシステムの特徴を語る上で欠かせない5つの要素についてご説明します。

1. オランダは150年前からタンパク質を豊富に産出してきましたが、現在では動物性タンパク質と代替タンパク質のバランスの取れた産出へと変遷しています。これまで経済をリードしてきた国内の大手食肉会社や乳製品会社の多くが代替タンパク質を製品群に取り入れ、その転換に取り組んでいます。

2. オランダはコラボレーションとトップセクターを含むパートナーシップに重きを置き、グローバルな課題への取り組みにも積極的です。

3. 創造力と起業家精神に溢れた国であるオランダは、イノベーション創出には最適な国であり、実用的な製品が生み出されています。

4. オランダのビジネス環境は抜群です。スタートアップや既存企業の発展、イノベーション、事業規模拡大を成功に導くお手伝いをさせていただきます。

5. オランダ国内には、世界トップクラスの代替肉、乳製品、魚介類、卵のブランドがあり、肉、魚介類、乳製品の類似製品の消費においては欧州一と言っても過言ではありません。皆様のブランドの成長をお手伝いし、欧州を含む様々な地域の消費者へ製品をお届けできるようなサービスを提供しています。

Jaime de Bourbon de Parme殿下
オランダ気候特使 より

気候変動対策の緊急性は日に日に高まっており、食料の生産は気候変動、生態系、種の喪失に大きな影響を与えています。世界第2位の農産物輸出国であるオランダは、気候変動の原因を回避できるフードシステムを率先して構築しなければなりません。では具体的に一体何ができるでしょうか?一例として、循環型・再生型農業を生かし、食品廃棄物を削減・再利用して、水の効率的な使用を促すことができます。また、順応性があり栄養豊富で、しかも高温な環境や塩分を含む水に強く、土壌にも有益であるなど、多様な作物の生産を促進することも重要です。

私はオランダ気候特使として、気候目標を世界に提案し、実現のチャンスを明確に示すとともに、「チーム:人類」として世界中の人々と共通の目標に向かって進んでいきたいと考えています。

タンパク質移行の転換点:世代をつなぐ
Evi Vet氏とJeroen Willemsen氏の世代による意識の違いについて
読む

I.趣旨

このFuture Protein NL誌で、オランダの代替タンパク質業界におけるコラボレーション、ビジネス、イノベーション、投資をご紹介し、更には国としてのご提案をお伝えすることができればと考えています。
タンパク質は地球上に生きる生命に必要不可欠なものです。ですから、これからは動物性の肉、乳製品、魚介類、卵と並ぶ代替タンパク質源を開発し、環境と社会のニーズに応えていく必要があります。気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の2021年の報告書では、プラネタリーバウンダリーを維持しながらも資源の枯渇に対応できる代替タンパク質の重要性を強調しており、動物性食品中心の食事から代替食品へ移行することでタンパク質消費のバランスを取り戻すことを「タンパク質移行」と呼んでいます。

国連(UN)の持続可能な開発目標(SDGs)は地球 規模の課題を共に解決することの重要性を訴え ています。
タンパク質移行は、国連が提示する目標のうち、

  •  飢餓をゼロに(2)
  •  すべての人に健康と福祉を(3)
  •  つくる責任つかう責任(12)
  •  気候変動に具体的な対策を(13)
  •  海の豊かさを守ろう(14)
  •  パートナーシップで目標を達成しよう(17)

などに関連してくる課題と言えるでしょう。

今や代替タンパク質の世界市場は急速に拡大しています。
技術的進歩や消費者の支持にもよるため多少前後しますが、 2035年には動物性の肉、乳製品、魚介類、卵などの代替食品の世界的シェアが10~22%になると予測されています。また世界全体での消費量は2035年までに9,700万トン*(推定市場規模は2,900億米ドル)と、7倍の増加が見込まれます。

オランダのアグリフード業界は高度に発達しており、また競争力もあります。世界有数の食糧生産国として農業製品の輸出では米国に次いで世界第2位。その強さはイノベーションへの積極性、業界間の連携、国際的な感覚にあると自負しています。

オランダが進める代替タンパク質エコシステムは、各国のタンパク質エコシステムの躍進を助け、革新的で持続可能なソリューションによってタンパク質移行に積極的に貢献しています。オランダに拠点を持つ国際企業はこのセクターの強みを利用し、イノベーションにつなげています。

オランダは150年以上前からタンパク質を豊富 に産出しており、アグリフード、サステナ ビリティ、知識共有において豊富な経験を誇っています。タンパク質の生産、加工、マーケティング、イノベーション、技術、物流には多くの実績があり、これらのスキルを革新的な専門知識や新しい考え方と組み合わせることで新たな段階へと進化し続けているのです。食肉、乳製品、魚介類の分野で培われたインフラ、知識、人材、グローバルネットワークは、未来のタンパク質に応用することが可能で、動物性タンパク質と代替タンパク質は競合的ではなく相補的なソリューションと言えるでしょう。このバランスを取り戻すには、民間と公共はもちろんのこと、新たな食品業界の関係者(それは意外なところから見つかるかもしれません)、スタートアップや大企業などのパートナーシップとの協力が必要です。

オランダは国境を越えた視野を持ち、オープンで革新的、かつ寛容な文化を通じてグローバルな課題を共に解決していきたいと考えています。

本誌は、一次生産、加工、研究、イノベーション、ビジネスを含む、バリューチェーンのすべてを網羅しています。複数の事例やビジネスケースを通して、オランダの未来のタンパク質エコシステムに光を当てることが狙いです。
本誌は、東オランダ開発公社(Oost NL)、 オランダ企業局(RVO)、トップセクター ア グリフード、Foodvalley NL、オランダ経済・ 気候政策省 企業誘致局(NFIA)が企画し、 Larive Internationalが実施しています。

代替タンパク質

オランダでは250社以上の企業がタンパク質移行に取り組んでおり、世界に影響を与える代替タンパク質ソリューションの開発に注力しています。タンパク質移行とは基本的に、動物性タンパク質と代替タンパク質または植物性タンパク質とのバランスを取り戻し、タンパク質の過剰消費を防ぐことを意味します。バランスの回復は、オランダのみならず、欧州、米国、カナダなど西欧諸国にとっても大きな課題です。オランダの例では、2019年中に消費したタンパク質の61%は動物由来でした。資源の消費と生態系への負担を軽減するため、オランダ社会基盤・環境省は、2030年までにこれを40%まで下げるよう勧告しています。

2021年の調査では、オランダの消費者の42%が「前年より肉を食べる量が減った」と回答し、49%が「毎日肉を食べる習慣は過去のものになりつつある」と回答しました。それでもオランダの消費者のタンパク質平均摂取量は推奨量を約50%上回っており、タンパク質のバランスを取り戻しつつ過剰消費を抑えることは大きな課題となっています。

豆類やナッツ類などの未加工または加工の少ない植物性タンパク質の消費を増やし、動物性の肉、魚介類、乳製品の消費割合を減らすことは、タンパク質のバランスを取り戻す上で最も簡単かつ持続可能な方法です。しかし、実際にこれを行うには多くの人にかなりの変化を強いることになります。

そこで消費者の大きな味方となるのが「移行のためのタンパク質製品」です。

この製品は消費者が持続可能なタンパク質の食事に移行するのを助け、また将来的にも大きな役割を担っています。移行のための製品は、食感、調理のしやすさ、香り、食事における位置づけなどの点で、現地の一般的な食生活や製品、料理と調和している必要があります。

フードシステムを見直すことは、循環経済の目標に近づくことを意味します。循環経済は、全当事者の関与を必要とするシステムの改革です。オランダにはこの循環経済を提唱する世界的に発言力のある人材がいます。本章でご紹介するオランダの国家タンパク質戦略では、タンパク質を再利用する、より循環性の高いモデルを目指すことが掲げられています。たとえば 食品残渣からのタンパク質抽出も検討中 です(人用と動物用の両方)。
本誌では人用の食品に焦点を当てていますが、動物用の飼料もタンパク質のエコシステムには必須の要素であるため、国家タンパク質戦略のひとつとなっています。

代替タンパク質には多くの定義があります(類似製品や後継製品など)。
本誌ではタンパク質を豊富に含む供給源、原料、中間製品、最終製品(動物性の肉、乳製品、魚介類、卵と同様に使用できるもの)を代替タンパク質として定義しています。
主なタンパク質供給源は、以下の3つに 分類されます(人の消費用のみ)。

  • 1. 植物性タンパク質(豆類、ナッツ類、穀類)や海藻など、地上または海で生産されるタンパク質
  • 2. 微生物、菌類(マイコプロテイン)、藻類、細胞農業(培養による肉や乳製品)を利用して生産されるタンパク質
  • 3. 昆虫由来のタンパク質

代替タンパク質については数多くのイノベーションが行われてきました。これまで複数の変遷をたどりましたが、世代を経るごとに動物性タンパク質への類似性に重点が置かれています。しかし、動物性の肉、乳製品、魚介類、卵の次の世代は、動物由来の先行製品に類似したものだけでなく、独自の価値を持つものなど、多様な製品で構成されていくと予想されます。

出典:オランダ農業・自然・食品品質省